五十肩について

当院でよく診療する肩の痛み、特に五十肩についてご紹介いたします。五十肩以外にも肩の痛みには対応しています。

五十肩とは

名称について

四十肩と五十肩は全く同じ病態を示すものであり、どちらも俗称です。正式には「肩関節周囲炎」と呼称します。その名の通り、肩関節の周囲に炎症がある状態を指します。では肩関節の周囲とは何でしょう?どこの部分に炎症や損傷があるのか?すなわちそれが患者さんそれぞれの五十肩の原因そのものとなるのです。要するに、五十肩という単一の疾患や障害はなく、患者さんお一人お一人に肩が痛い原因があり、そこを良くしない限り五十肩の症状は改善しないということなのです。以下に主な分類を示します。

肩峰下滑液包炎

肩腱板と三角筋の間には、お互いが滑らかに動くよう滑液包という袋状の組織が存在しています。この滑液包に炎症や癒着、線維化などが生じると肩の外側に痛みを生じる様になります。特に腕を真横から挙げようとした時に(外転動作)ズキっと痛みが走ることが多いです。これは五十肩の6割から7割程度を占めると考えられます。実際に当院でも最も多く治療する五十肩の一つです。肩峰下滑液包にヒアルロン酸注射をしますが、その場で肩の動きが改善し、痛みがほぼ消失することも少なくありません。当院に限らず、著効する患者さんではその場で驚きや喜びの声を上げる方もいらっしゃることでしょう。

石灰沈着性肩腱板炎

肩腱板の中に過去の炎症や外傷により石灰沈着が生じることがあります。痛みがない方もいらっしゃいますし、痛みが生じて医療機関を受診しレントゲンや超音波検査で指摘されることもあります。痛みの特徴としては肩峰下滑液包炎とほとんど同様となります。石灰沈着が生じているだけでは治療の必要性はありませんが、痛みを訴えて受診された限りは何らかの治療を要すると考えられます。当院では石灰沈着の位置や大きさにより若干の違いはありますが、肩峰下滑液包炎と同様な治療を行ったり、石灰沈着の周囲に直接注射を行ったりしています。生理食塩水で石灰沈着をできるだけ洗浄するなどの方法をとることもありますが、基本的には簡単には石灰沈着が崩れたり消えたりすることはありません。

上腕二頭筋長頭腱炎

上腕二頭筋はその名の通り、筋肉の頭が二つに分かれます。一つは長頭、一つは短頭と呼ばれます。特に長頭は細長い長頭腱という部分が炎症を生じやすい構造をしています。そしてそれがそのまま疾患名として上腕二頭筋長頭腱炎と呼称されます。肩の前方が痛い方や、特に後ろ手にすると肩の前方が痛む方はこの炎症を生じている可能性があります。当院では超音波で長頭腱炎の有無を検索し、必要に応じて消炎鎮痛の注射を行っています。これも直後から鎮痛効果を感じることが多い疾患の一つです。

凍結肩

肩関節本体の炎症や癒着で肩関節の可動域制限が強く生じている状態を指します。痛みで動かせないのではなく、そもそも硬くなってしまい、例え麻酔の効力で肩関節の痛みを抑えたとしても動かない状態になります。可動域を越えて動かすと痛みがあるのはもちろん、動かさなくても痛みが生じ、夜間に痛みで目が覚めることもあります。そして多くの方がこの夜間痛を訴えます。根気強い可動域訓練が必要になりますが、そのまま可動域訓練を行うのは非常に痛みがあり辛いため、肩の神経ブロックにより鎮痛や除痛を行ってからストレッチなどすることが多いです。それでも中々可動域が改善しない場合、サイレント・マニピュレーション(非観血的関節受動術)を行うことがあります。当院でもサイレント・マニピュレーションは行っています。サイレント・マニピュレーションは肩関節の癒着がブチブチと音を立てて剝がれるのが特徴で、患者さんにはその音が聞こえます。痛みは一切ありませんが、音に驚くことがほとんどです。また動かなかった肩が動く様になりますので、驚きや喜びを感じることが多いでしょう。

肩腱板損傷

肩腱板の炎症や断裂、不全断裂は場合により五十肩と同じ様な症状を呈します。しっかりとした精査を行わないまま治癒、あるいは寛解や線維化を生じた場合、診断されないままあれは五十肩だったと認識されていることもあるでしょう。

五十肩の治療法

以下に当院で行う治療法についてご紹介します。どの疾患にどの治療法を行うかはお一人お一人の状況により違いますので、実際に当院で治療を行う際にご提案いたします。また、当院では行っていないリハビリ(可動域訓練含む)や物理療法につきましては、ご希望の場合はご自身で整形外科医院などにご相談されるか、当院から紹介させて頂きます。

ヒアルロン酸注射

滑液包や肩関節にヒアルロン酸注射を行います。癒着の剥離や潤滑に役立ちます。その場で痛みが改善し、痛みによる可動域制限も解除されることがあります。当院では超音波ガイド下にリアルタイムで注入の様子を観察しながら行います。場合により患者さんも一緒に画面を見ることができますが、中には針や広がる薬液の様子を見て気分を悪くされることもありますのでご注意下さい。

肩関節の神経ブロック

肩に分布する神経を局所麻酔薬により神経ブロックします。超音波ガイド下に神経の部位を確認して行います。直ちに肩関節の痛みが緩和されることが期待できます。ただし、可動域訓練とセットで行うことが前提ですので、神経ブロックしても何も訓練しなければ、そのまま鎮痛効果は消失してしまいます。

肩関節腔内注射

局所麻酔薬やステロイド、あるいは前項のヒアルロン酸など肩関節に注射する方法です。除痛、鎮痛、潤滑、消炎などの効果を期待して行います。超音波ガイド下に行い、確実に肩関節に注射されていることをリアルタイムで確認します。

長頭腱注射

上腕二頭筋長頭腱炎に対して長頭腱の周囲に注射する方法です。超音波ガイド下に行い確実に薬液が周囲に広がっていることをリアルタイムで確認します。

ご注意

上記は当院でよく診療する代表的な疾患を述べているに過ぎません。肩の痛みを生じる疾患は他にもあり、当院に限らずお一人お一人精査して診断する必要があります。また、当院の経験や所感を述べたものであり、その表現などにおいて学術的に全て正しいことを保証するものではありません。特に五十肩は様々な病態を含むものであり、それぞれが診断された時点で各々の疾患名に置き換えられますが、それらが診断されない限りは、あるいは診断されたとしても一括りに五十肩と表現されることがあります。また、狭義の五十肩や広義の五十肩など、医療機関や医師により見解が異なることがあります。他院様に受診された際に「この様に書いてあった」「この様な治療を希望する」など当院の記載を元にお話をされることに、当院は一切の責任を負いません。